「ブロックチェーンはこれからの時代の必須教養」/書籍『ブロックチェーンがひらく「あたらしい経済」』の序章を発売前に無料公開(2/2)

特集 書籍『ブロックチェーンがひらく「あたらしい経済」』

「ブロックチェーンインテグレーターとして社会にブロックチェーンを実装する」ことをミッションとして掲げるブロックチェーンテクノロジーカンパニーchaintope。そのメンバーが執筆した書籍『ブロックチェーンがひらく「あたらしい経済」』が8月26日に出版されます。今回は出版を記念して書籍の序章を発売前に特別公開いたします(→前半はこちら)。あらゆる業界のビジネスパーソンが知るべきブロックチェーンの知識とビジネス活用事例を学べる1冊、ぜひお手元に!

ブロックチェーンだからこそ日本にも勝機がある

そしてこうした変化は日本やアジアの再生にも一役買うかもしれません。

これには、ブロックチェーンが浸透した世界には、「絶対的な権力者が必ずしも必要ではなくなる」という状況が容易に作り出せるという特徴が影響しています。

ちょっとだけ話がそれますが、ブロックチェーンがなぜ私たち日本人、アジア人にとって重要なのか、という根底に関わる部分ですのでしばらくお付き合いください。

インターネットが登場してからというもの、既存の製造業や流通・小売など多くの大企業が新興のスタートアップ企業によって追い抜かれていきました。インターネットが独占的・中央集権的な古い社会を壊して、自由でひらかれた社会をもたらすと夢みた人が多くいました。

これまで、グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾンの頭文字をとってGAFAと略されることもあるIT業界の覇者たちは、インターネットを最大限に利用して、業務を集中化・標準化させることで一点一点のコストを極小化していきました。彼らは、従来の産業革命で生まれた一部の富豪たちが富を独占して非難された歴史を学んでおり、常に最安値・最高品質を利用者に提供し続ける努力によって非難を避けることができました。

しかし、まさにその努力によって、業務を集中化できない企業(プラットフォーム企業でない企業)が淘汰されるという状況ができてしまったのです。

結局のところ、インターネット革命によって生まれたのは、GAFAといった別の形の中央集権的な権力者だったともいえるでしょう。しかもGAFAはすべて米国企業です。それによって、インターネットを基盤としたビジネスで扱われる主要な技術(ソフトウェア・ハードウェア)のほとんどは米国や欧州の技術になってしまいました。

もはやインターネットの世界で日本人や日本企業はあくまでも利用者に過ぎないのです。

ところがブロックチェーンについては、現段階では完全に世界同時競争のタイミングです。国際機関による標準化の動きがまだないという点で、非中央集権的に世界で技術競争が行われているということです。もちろん、ブロックチェーンはインターネットが世界中に浸透した前提で動く技術ですし、当面はGAFAの利用者であり続けます。やや矛盾を感じるかもしれませんが、しかし、これは最終的には分散型の技術なのです。今まさに隆盛を極めている中央集権型の巨大企業に風穴を開けて、その中に、正反対の思想を持った社会を同居させながら築く技術といってもいいでしょう。

米国巨大IT企業に風穴が開くという可能性は、日本やアジアにとってはチャンスだということです。

話を元に戻しましょう。

先ほどブロックチェーンとは分散型の台帳システムだと説明しました。そしてさしあたり台帳というのは支払台帳とか総勘定元帳といったように記録を残すノートやメモのようなものとして考えてみるということで話を進めてきました。こうした中で例えば通帳は大事ですという話から、これが実は仮想通貨に繋がったわけです。

でも、こうしたノートやメモ、すなわち台帳が重要な分野は他にもたくさんあると思いませんか? 例えばポイントや商品券、不動産登記簿、賃貸借契約書、旅館やホテルの宿泊者名簿、あるいは近年注目されているトレーサビリティの記録帳などなどです。

こうしたものすべてがブロックチェーンによって大変革される可能性があるのです。

ブロックチェーン社会実装のラスト・ワンマイル

しかし、大変革が起こるという時、いつも立ちはだかるのは法律や規制の問題です。もちろん規制は必要があるからこそなされるものです。しかし時として規制が社会変革をさまたげることがあります。

これからブロックチェーンの活用によってあたらしい世界が生まれます。現状の法律では定義できないあたらしい社会のモデルがこれから出てくるということです。そのため既存の法律の解釈を変えたり、新法を作ったりする必要性が出てくるでしょう。

ちなみに日本は世界に先駆けてこの仮想通貨に関する法律を整備している先進国でもあります。2017年4月1日には通称「仮想通貨法」が施行されました。正式名称は「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」という改正法案です。そこでは①仮想通貨の定義づけ、②仮想通貨交換業者(取引所)の登録制の導入、③仮想通貨交換業者の監督規程の整備が行われています。

日本はルールづくりという意味で世界をリードしている半面、規制が絡む領域でのブロックチェーン活用には多くの時間を要しています。現在の状況はというと、「仮想通貨に関して」は、日本における規制は強化される一方です(ブロックチェーンの技術を規制するわけではありません。仮想通貨の取り扱いを規制するのです。ここがよく混同されるポイントです)。

仮想通貨はそういう状況でも、金融以外の分野からブロックチェーンの活用が期待されます。

例えば、電力分野でエネルギーを分散管理するという試みもその一つです。ブロックチェーンを活用してピア・ツー・ピア(Peer-to-Peer, P2P)で、個人間で電力取引を行うという考え方があります。これも実現するとあたらしい経済の形が生まれると考えられます。しかし現実は、圧倒的な力を持つ地域電力会社がこれまで莫大な資本を投入してきたインフラに依存するモデルですから、新参の企業がそう簡単に既存の仕組みを変えることは容易ではないと想像できます。

そのため、電力分野におけるブロックチェーン活用は、既存の大企業と若いスタートアップ企業が手を結んで、実証実験を繰り返し一つ一つ間違いのないことを確かめながら進んでいくと考えられます。

それによって段階を経て電力をめぐる経済も変化していくと思われます。何といっても日本は世界でも最高レベルのエネルギー供給技術を持つ国なのです。世界から比べると圧倒的に停電が少ない、素晴らしいシステムを日本は持っています。そして素晴らしいからこそ不満がなく変化は好まないというジレンマがあります。あたらしいことを考えても100点満点じゃないと変化を受け入れられないという領域なのです。

金融に続き電力の分野も時間がかかるとすると、はじめにブロックチェーンの突破口をひらく領域はどこでしょうか?おそらく商品のトレーサビリティの領域ではないでしょうか。そもそも台帳としてのブロックチェーンの性質そのものが商品などの履歴管理を行う機能とマッチしていそうです。

トレーサビリティの領域においては、より管理を厳格に行う方向に規制が動くことはあっても、反対に管理しない方向に動くことは考えにくいでしょう。この時、厳格な管理を「人海戦術でやる」という古い発想から「技術を駆使して行う」というあたらしい発想に切り替える企業にとって、ブロックチェーンは一助となるはずです。

日本においてはまずトレーサビリティの領域でブロックチェーンが活用され、社会からの理解も進み規制などの問題がなくなった領域に順番にブロックチェーンの活用がヨコ展開していくものと考えています。

これは、あくまで日本においての話です。海外では金融か電力から応用が始まる可能性が大いにあります。

繰り返しになりますが日本では、まずはトレーサビリティの領域がブロックチェーンによる変化を受け入れるでしょう。次に、丁寧に実証を繰り返した後に電力やエネルギーの領域に革新が起こるでしょう。その後、規制当局などの法律解釈の整理もされた段階でようやく金融領域のブロックチェーン活用が始まります。

筆者は、新型コロナウイルスの蔓延が起こる前までは、地道な変革の繰り返しの先にブロックチェーン革命が引き起こされると思っていました。しかしながら、本来20年くらいかかる変化が、わずか数年で引き起こされる可能性が高くなってきています。

この大きく急速な変化を日本から発信し世界にモデルを提案するのか、またはこれまでのように海外で実現されたモデルを日本はあくまで利用者として活用するのかは、私たちにかかっていると思います。

ブロックチェーンの問題は技術ではなく私たちの側にある

だからこそ、ここで筆者が心配しているのは「法制度や政策や社内制度の整備が遅いことによって国際競争に日本が取り残されないか?」ということです。

すでにブロックチェーンの今後の活用領域に日本の制度が非常に大きな壁となって技術の進歩に影響を及ぼしています。こうした時、新技術を規制するのではなく活用する方向での法律策定などは日本より欧米の方が素早く進める傾向が強いのです。そうすると、インターネット革命が米国のシリコンバレーから起きて、ほとんど持っていかれたのと同じことが起きるかもしれません。ブロックチェーン革命においても、米国であたらしいモデルが実現された後に日本に輸入されるというパターンがまたも繰り返されてしまうかもしれません。

日本人や、日本企業はそのサービスの利用者に過ぎないという流れになってしまうことを筆者は非常に懸念しています。

日本にいる人や組織にはブロックチェーンの基盤技術を作れる・応用できる力が確実にあります。実際にいくつかの先端的な事例が本書の2章で登場します。先端的な試みには、抵抗したり時間稼ぎしたりする言い分として制度や慣習を掲げることがしばしば起こり、開拓する努力を諦めさせたり、スピードを遅らせるブレーキになったりすることがあります。そうして、結局インターネットの時のように他国が先に実現したものを日本で受け入れて使わなくてはならないという残念な未来になる可能性が十分に考えられるのです。

5章でまとめているように、すでにブロックチェーンの技術的な問題の多くは解決しつつあり、さらに日本においてブロックチェーン技術者が育ちつつもあります。その結果として、日本においても世界に先駆けるブロックチェーンの活用事例が出てきています。つまり国際的な同時競争において、今はまだ日本も決して遅れてはいません。

だからこそ今の私たちに必要なのはあたらしい技術がもたらす変化を恐れず、素早くしかし着実にこの技術革新を取り入れていくという姿勢そのものなのです。

本書の読み方

本書は、まず続く1章においてブロックチェーンの仕組みとその潜在的な可能性についてのエッセンスを誰にでも分かりやすく説明していきます。

そして2章においてブロックチェーン技術によってすでに実現しつつあるすぐ目の前の未来の事例を紹介します。そして3章はブロックチェーンによるあたらしい経済が広まった先にある未来について考えてみます。

ブロックチェーンについてざっくりと理解しておきたいという方はこの後の1章を読んでいただければよいでしょう。そしてブロックチェーンをビジネスに活用したいという方は2章と3章を読んでいただければよいかと思います。これらの章は具体的な事例に基づいたビジネスへの活用方法を考えていくものになっています。

本書の基本的な部分はこの「序章から3章」に凝縮されています。

その上で、4章では「ブロックチェーンのさわりは分かるが本格的に技術の中身を知りたい」という方向けにブロックチェーンの仕組みを解説しています。

5章ではさらに技術的な問題に踏み込んでいます。ブロックチェーンの課題にはどんなものがあって、それを解決するにはどうしたらよいかを考える章です。

ブロックチェーンを簡単に知っておきたいだけ、ビジネス責任者として理解したい、エンジニアとして理解したい、などによってこの本の読み方は大きく変わると思われます。

ただ、どんな人にとってもブロックチェーンがこれからの時代の必須教養であることには変わりありません。

さあ、未来の見取り図をこれから一緒にみにいきましょう!

(序章 あたらしい経済の見取り図を目指して より)

→序章前半はこちら

書籍情報

ブロックチェーンがひらく「あたらしい経済」

正田英樹/田中貴規/村上照明/中城元臣/安土茂亨/株式会社chaintope(著)

2015年からブロックチェーンに関する研究や実証実験を開始し、国内外の様々なブロックチェーンプロジェクトのシステム開発やコンサルティングを行ってきたchaintope。

そんなchaintopeが本書でブロックチェーン技術の仕組みに加えて、現在の日本で動き出している地域コイン、電力の価値証明、流通トレーサビリティ、不動産の権利証明、IoTとの連携など様々な領域のブロックチェーン活用事例を紹介。そしてブロックチェーンがより浸透したもうすぐそこにある未来に、私たちの仕事や生活がどのように変化していくか、これから訪れる「あたらしい経済」について指し示す。

現在のインターネットのように私たちの経済や生活と切り離せなくなる技術となるであろうブロックチェーン。そしてさらに誰もが予想していなかった新型コロナウイルスによってブロックチェーンが必要となるタイミングは確実に早まっている。大きな社会変革をもたらすブロックチェーン技術を、具体的にどのように様々なビジネスや産業で活用していくべきか。あらゆる業界のビジネスパーソンが知るべきブロックチェーンの知識とビジネス活用事例が学べる一冊。

→購入はこちらから(Amazonへリンクします)

この記事の著者・インタビューイ

あたらしい経済 編集部

「あたらしい経済」 はブロックチェーン、暗号通貨などweb3特化した、幻冬舎が運営する2018年創刊のメディアです。出版社だからこその取材力と編集クオリティで、ニュースやインタビュー・コラムなどのテキスト記事に加え、ポッドキャストやYouTube、イベント、書籍出版など様々な情報発信をしています。また企業向けにWeb3に関するコンサルティングや、社内研修、コンテンツ制作サポートなども提供。さらに企業向けコミュニティ「Web3 Business Hub」の運営(Kudasaiと共同運営)しています。 これから「あたらしい経済」時代を迎える すべての個人 に、新時代をサバイバルするための武器を提供する、全くあたらしいWEBメディア・プロジェクトです。

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あらゆる業界のビジネスパーソンにブロックチェーンでのDXの可能性を伝えたい/書籍『ブロックチェーンがひらく「あたらしい」経済』発売記念インタビュー

株式会社chaintopeの正田英樹氏、田中貴規氏、村上照明氏、中城元臣氏、安土茂亨氏に出演いただき、出版に込めた想い、どんな方に読んでいただきたいか、新型コロナウイルスがどのように執筆やビジネスに影響をしたのかについて語っていただきました。