「世界はそれを呪縛と呼ぶか、理想と呼ぶか」芥川賞作家・上田岳弘氏×ブロックチェーンエンジニア・落合渉悟氏 <2万字特別対談>(2)

特集 文学とブロックチェーンで世界を変える

仮想通貨(暗号資産)/ブロックチェーンを題材にした『ニムロッド』で第160回芥川賞受賞し、最新作『キュー』ではテクノロジーの発展の先にある分散化あるいは究極の中央集権化を見事に描いた小説家 上田岳弘 氏。そしてイーサリアムの高速化技術である「Plasma」の開発者として世界から注目を集めるエンジニアであり株式会社Cryptoeconomics Lab のCo-founder/Chief Economistである落合渉悟氏。小説家とエンジニアという全く違った境遇の二人が表現やテクノロジーの未来に激しく共鳴し合う、特別対談第2回(全3回)。

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「天才小説家と天才エンジニアの化学反応」芥川賞作家・上田岳弘氏×ブロックチェーンエンジニア・落合渉悟氏 <2万字特別対談>(1)

ブロックチェーンは巨人に一発食らわせられる技術

上田:なんで落合さんはブロックチェーンの業界に行こうと思ったんですか?

落合: AIなども勉強していましたし、大体のエンジニアリングができるんですけど、18歳からスタートアップをずっとやっていて、勝ち筋を掴むという学習をしていくわけですよ。するとAIをスタートアップとしてやったところで、ディープマインド(イギリスの人工知能企業)みたいにいければいいけど、基本的に大きいところがデータを集めたら勝つので、まあ構造として勝てないよね、と。じゃあ構造として巨人に一発食らわせられるのって何かなってところで、ブロックチェーンなら行けるかもしれないと思ったんです。

上田:18歳からのスタートアップって随分早いように思います。何をされてたんですか?

落合:今、僕の会社にいる部谷という神様みたいな研究者がもともとやっていた会社が、僕のスタートアップ系のファーストキャリアで、海外にFirebaseっていう簡単にサーバー立てられるバックエンドのサービスがあったんですが、それの日本版のようなものを作っていました。当時は牧歌的でしたね、キュレーションメディア全盛期でしたから。

上田:10年くらい前ですか?

落合:6~7年くらい前だから20歳くらいの時かな。日本の大企業に行っても仕方ないのは見え見えだったので。サバイブしないとな、という想いが強かったです。

上田:ご出身はどちらなんですか?

落合:鹿児島で生まれて、福岡で育って、東京行って、インドネシア行って、佐世保です。

上田:じゃあ今は佐世保に?

落合:佐世保で研究し放題。

上田:Iターン? Uターン? Jターン?

落合:放浪です(笑)。家族ごと放浪しています。

上田:超面白いですね(笑)。

落合:子供がもうちょっとしっかりしてきたら家族で海外放浪したいですね。

上田:いいですね。

人類の人口は100億人行くか行かないかで止まる

落合:グローバリゼーションの弊害だと思うんですけど、家族で移動したいってなると、必然的に子供の欲しい量が減っちゃうので。これはアフリカだろうがなんだろうが、同じ現象が起こるので。この間アメリカの『Empty Planet』という書籍が出たんですが、人類の人口は100億人行くか行かないかくらいで止まるって話でした。

上田:僕も『ニムロッド』では直感値で120億人ってしたんですけど。まあ±20%くらいはあるだろうから、確かに100億人っていうのはわかります。最近知り合った学者の方に聞いても、だいたいそんなもんだろうと、どの分野の人も口をそろえて言うので面白い(笑)。

落合:止まるらしいんですよ。地球の人口扶養力っていうのを計算すると出てくるんですが、そこに全然到達しないで止まるということがわかって。っていう経済学的な資源分配問題で言うとけっこうイージーになってくるかなって気がしているんですけど。

上田:止まる理由って何なんですかね?

落合:移動が容易くなったり、機会が増えて、アフリカの人だろうと同様に機会があるから、個として生きることの楽しみが増えていって、あまり多く子供を持ちたくなく、都会化していくということらしいです。

上田:どちらかというとマインドの問題なんですね。

落合:昔はどこまでも増えるから1000億人とか行っちゃうかもしれない、地球の人口保有力を超えるかもしれない、水足りないかもしれないって話だったのが、ガラッと変わっちゃって。

上田:なんでしょうね。先進国というか、地球規模で少子化状態に陥るという。

落合:そう。そして高福祉のジレンマに地球全体が陥る。アンサーは3つしかなくてどれもダメ。

上田:調べたわけじゃないですけど、なんとなくそれを直感で感じていて。そこを『ニムロッド』で表現しました。『キュー』でも。多分そういう資源的な限界の前に、別の問題でそうなるだろうなっていうのが頭の中に。

落合:そこけっこう直感だったりする部分もあるんですね。

上田:完全に直感ですね。直感で書いて、あとで調べると大体当たっているんですよね。

先に直観がやってくる(上田)/ブロックチェーンの研究はほぼ直観(落合)

落合:すごい、いいな。ところで『キュー』の中では自分を誰に当てはめて書いたんですか?

上田:僕はGenius lul-lulと、立花徹が分裂した感じ、両方ですね。

落合:僕の予想当たってました(笑)。Genius lul-lul感で書いてたんですね、小説。

上田:あまり言うと頭おかしいと思われるから(笑)。小説はいいんですよね、好き勝手書いてもそこまで文句言われないんで。プログラミングって、間違っていると動かないじゃないですか。小説の場合間違っていても、そんなに問題ない。

落合:それ上田さんにペテン師のRejected People入ってるじゃないですか(笑)。あのキャラ良かったな。しかも消えるところ悲しかったな……消えたことすら自覚できないっていう。しかし、Genius lul-lulの最後ルルルルってすごい言いにくいですね。なんでルルルルなんですか?

上田:スラングから取っています。一応読みの正式名称はジーニアス・ルルになりました、つい先日。というのも、ある方の声からイメージして書いた登場人物なんですけど、その彼と『キュー』について話してたらジーニアス・ルルって読んでいたんで、彼が言うならルルでいいやってなりました。あまりそこは決めてなかったんですけど。

落合:芸術家のあの感じ、すごい好きです。僕自身もそうだった時期はあるんですが、僕は童貞力って表現していて。でも妻には「神通力って言った方がいい」って怒られますが。人間があの境地に行くことのできる力って僕は好きで。今はもう出ないんですけど。若いころ、子供が生まれる前なんかはいつもあの力を渇望していましたね。

上田:思い込みの力みたいな?

落合:そう。思い詰めた若者の力があったはずなのに出ないから、僕はあのころを超えられない、最高到達点に行けないってずっと思っていました。最近はそうでもなくなったんで良かったんですけど。すごく焦っていましたね、昔は。

上田:一種、通り魔的なパッションなんですよね。僕デビュー作が『太陽』っていう作品で、通り魔のことをちょっとだけ書いたんです。世の中が間違っていることが見えてきちゃった時に、何が合っているかは誰にも分からないけれど、その自分が見えているものを信じられるかどうかっていう。童貞力の話じゃないですけど、自分の妄想が正しいはずだと信じられる力みたいなものって……。実際あらゆる思考って、必ず正しさを含んでいると思うので、それを突き詰めていくのが僕は好きで。

かたやGenius lul-lulの心情描写として書きましたけど、「何かが分かった」っていう感覚が最初にあるんですよ。これってどういうことなんだろうっていうのを突き進めて解釈していくのが、僕にとっては小説を書く作業で。

そういうことないですか? 先に直感がやってくるみたいな。こうに違いないみたいなものが先にやってきて……。

落合:めちゃくちゃあります。というか、ブロックチェーンの研究はほぼそれ。理詰めできるところには限界があるんです。

どんなに優れた技術でも、呪術の範疇の外にはいけない

上田:積み上げじゃなくて、こうに違いないってところで入っていく。

落合:あります。それに、技術的な積み上げよりも先に、社会的な直感の方がだいたい正しいので。要は人間って呪縛されたというか、呪術的な生き物なので、技術はその呪術の範疇の外にどんなに頑張ってもいけないんですよ、どんなに優れた技術でも。クローンは使われていないですし、CRISPER/CAS9(遺伝子書き換え技術)を天才児等を産むために使うことも今のところはタブーですし。その呪術自体をまずは解いていってからかけ直さなきゃいけないので。

ブロックチェーン技術もまずはどういう形でその呪術を解き、かけ直すことができるのか、設計してから作らなければならないと思います。

上田:落合さんの言う呪術っていうのはなんですか?

落合:例えば、人の命は守らなければならないっていう当然のベース。これも長い歴史で培われた一種の呪術なんですよ。これはかなり強力なタイプの呪術だと思っていて。福祉は用意しなきゃいけないとか、納税はしなきゃいけないとか。ありとあらゆること、共通認識のすべてが。共同幻想ということもできるかもしれない。すべて呪詛的で。人間ってどんなに優れても、技術が発達しても、呪術に寄り添って生きていくものだと思うんです。

これは「等国」的な考えですかね。ただすべての呪詛を解除すると「錐国」にできるという解釈をしています。だから僕はいま何をプログラミングしているかって言うと、最初はお金と人と組織だと思っていたんですが、今はもっと抽象度が上がって、呪詛をプログラミングしているって解釈していて。解いたりつけたりしている。

上田:呪詛って言うとネガティブな印象を受けるじゃないですか。

落合:いい名前を探しているんですけどね。

上田:理想とかじゃだめなんですか? 同じもののA面B面な気がしますけどね。

落合:理想、確かにとてもいいです。理想を重ね掛けしすぎるとにっちもさっちもいかなくなる。それが高福祉のジレンマ状態だし。そこから安楽死を選ぶのはなんで駄目なんだろうっていうのは理想を解いていく作業。

上田:ただそこのネガティブなものを含む理想っていうのは、ひとつ微分された気がしますよね。つまり理想の構成要素として長生きとか平等とかがあるとして、でもそれは実は理想ではないはず。

落合:オッカムの剃刀で言うと消せる。

上田:そうそう。そういうものかもしれないと考えると、本当の理想ではないような気はしますね。それを思わず呪詛って呼んでいるんでしょうね。

落合:なるほど、さすがですね。

上田:呪詛って言いたくなる気持ちはわかりますから。

落合:通貨発行という行政が、税金によって国家に凖ずる組織にしかできないっていう思い込み、これは呪詛っぽいなと感じています。その呪いをビットコインが解いたっていう構図はしっくりきたんで。でも他の部分に関しては理想って言った方がいいですね。

「富」という形のないものと、「暗号通貨」という形のないものはよく似ている

上田:国も本来は共同幻想じゃないですか。最近『ニムロッド』や『キュー』を書いて、ちょっと考え進んできて思ったのが、もともと貨幣がない状態でも、人類の富って存在しただろうと。富はあるけど、それを扱うために物質化してなかったので、分散して富があった。

貝殻貨幣とか、金本位に対してでてきた管理通貨が出てくることによって、その富というものに手を突っ込んで動かすことができるようになったから、富が膨らんできたのだろうと感じはじめています。もともとの富の形と、ビットコインとかイーサリアムを含めた暗号通貨というものは、非常に似ているのではないか。原始的な富の相似形としての暗号通貨と捉えると、すごく将来性があると感じる。

富って本当は形がないから。通貨が作られることによって、そのアクセスパスができて、増大する方法が生まれてきたっていうのは、俯瞰で見た時に感じたんですよね。

落合:まったく思いつかなかったです。

上田:マルク・カルプレスさんとの対談をした後にちょっと考え出したんです。富っていう形のないものって、暗号通貨っていう形のないものに本当に似ている。そしてそれが資産であるという合意がなりたって、原始の相似形のまま富を扱えるようになるのはかなり流れ的に美しいのではないかと。

落合:岩井克人先生の『貨幣論』っていう本があって、マルクス経済学の系譜なんですが。もともと貨幣って貝殻から始まったり、布になったり、小判だったり、いろいろなものを介してきて、今は紙じゃないですか。そこからのビットコインなんですけど、結局貨幣の本質って、使われるものが貨幣だよね、ということを書いていて。

通貨ってどんどん刷新され続けている。アップデートされ続けているから、より無駄のない姿に近づいていっているんだと感じます。ビットコインとかイーサリアムのトークン自身も、もうすでに貨幣としての機能は失ったと思っている。なぜかって、ストア・オブ・バリュー(価値の保存)だから。価値を貯める、金(きん)に近い性質。

上田:資産であると。

落合:そうなってくると何が問題かって言うと、貴重なんですよ、デフレ型通貨というか。価値が減ずる速度よりも価値が向上する速度の方が早いとみんな使いたがらないんです。こういうタイプの通貨って経済学上本当に相性が悪くて。むしろ価値が減る、ゆるい1~2%のインフレのある通貨の方が、流通通貨としては相性がいい。どんどん使うとベロシティ(速度)がどんどん上がっていく。

だから流通通貨と貯蓄通貨を分けるべきであるっていうのがLCNEMというブロックチェーン企業の木村君がいつも言っていることなんです。最近流行りのMMT (Modern Monetary Theory:現代金融理論)っていう、お金はどうやって刷るのが一番いいか、みたいな理論とかの文脈なんですけど。

カストディー濃度を薄めることがカギ

上田:仮想通貨(暗号通貨)を暗号資産って名前に変えようキャンペーンやってるじゃないですか。あれは正しい?

落合:そうですね、的を射ていると思います。もちろんステーブルコインとかありますけど、ステーブルコインってソフトペグとハードペグって2種類あって。価値を実際のドルなど法定通貨にペグ(固定)する、力が強い弱いに分かれるんですけど。実際にはお金を100%供託するのはハードペグのステーブルコインで。これはむしろ古物商や、金証法なら前払い式や銀行業法で管理されるので、結局ポイントなんですよ、これって。だけどERC20なんで、イーサリアムの世界では普通に使えるっていう謎の実態がある。プログラマブル・マネー(プログラム可能なお金)と呼ぶのにふさわしいのはこっちかなって思っています。

で、ソフトペグのステーブルコインってどちらかというとアルゴリズムで価値をペグするように、分散した主体で価値を安定させようとするもので、供託金もスマートコントラクトの中に積まれている状態で、100%バックしていないんですよ。

これは2つの解釈があって、暗号通貨って解釈もできるし。いわゆるバスケット通貨っていうか、混ぜ物の円。99%の円に1%のプラチナを入れたお金も、これは証券だよね、という解釈もできてしまう。ちょっと扱いにくいものなんですけど。

面白いのはイギリスのジブラルタル証券という大きい証券取引所で、このソフトペグのステーブルコインが一応ステーブルコインとして認識されているんですよ。だからすごくマージナルな存在で。ジブラルタル証券が使うってことは、他の証券取引所がそれに準拠していく可能性があるので、非常にマージナルで面白いものがたくさんあるなと。

上田:いまその概念闘争じゃないですけど、実際のところ何を次のステップに進めていくのか、戦っている感じですよね。

落合:ですね。僕のいま作っているPlasmaというイーサリアムの高速化技術って、要はAWSのEC2みたいな普通のサーバーでトランザクション処理しているだけなんですよ。ですけど、もしこのサーバーを管理している人がデータを書き換えたとしても、その書き換えを証明できる。イーサリアムの親のブロックチェーンに報告すれば、この子チェーンが止まっていようが悪者だろうが何をしようが関係なくスルーして、お金を出せるんですよね、イーサリアム自体が。だから普段は楽観的にこっちの高速トランザクションを使うけど、何か起きた時は逃げるっていうゲーム理論的な考え方で速くしているんですけど。

これについて金融庁の人と話すと、「それってお金を預かってるからだめじゃない?」って言われるんですが、「これよく見てもらうと預かってなくないですか?」「確かに」っていう会話が永遠になされていて。

上田:それが無理矢理に今の法律に当てはめようとするので、めちゃくちゃな話になるんですよね。

落合:だからカストディー(投資家に代わり有価証券を管理すること)度合の濃度があって。僕はFacebookのLibraもカストディー濃度が高いと思っています。カストディー濃度を極限まで薄めた、ほぼカストディーじゃないよねっていうのがイーサリアムとビットコインの1万ノードとかで維持する世界で。真面目にやるなら、ここと同じカストディ濃度の薄さを目指さなきゃならない。我々の開発しているPlasmaは大枠で「サイドチェーン」に分類されるんですが、これはより処理が速くできますが、そこにも同じセキュアさを持ってこないと、濃度の濃いところは恐らく法律で全部つぶされるって認識で設計を進めています。

上田:薄めようと?

落合:薄めようとしています。そして消費者保護能力が高い、消費者に絶対危害を与えないことがバイ・デザイン(計画的)でわかっているのを見ると、僕はそれが金融規制のあるべき姿だと思うし。

これはインドネシアの渋滞で思ったんですけど、インドネシアって道交法がほぼ守られていなくて、渋滞しているから守らなくていいんですよ。これバイ・デザインで成り立っているいい姿だなって思って。

上田:それは捕まらないんですか?

落合:もちろん警察がいたら捕まるんですけど。基本的には捕まえるようなことが起きない程度に渋滞している。だからバイ・デザインで顧客を守るってすごい正しい道だなって感じています。

金融庁さんの意見を要約すると「技術が進みすぎてようわからん」みたいなことを言っていて。そうなると、道としては特許でもなんでもとって、絶対安全なんですって言い切るのがいいと思いますね。

上田:ちょっと話を戻すと、そうやってなにかしら法の穴を抜けられるのであれば、国家的な法でも認めざるを得ないっていう考え方もでてきたときに、それこそ半端な力の通貨を全部吸っていって暗号通貨が強くなった時、それがどういうふうな社会体制を作っていくのかってイメージできます?

落合:昨日フランス人と話していた時に聞いたんですが、アフリカからフランスに出稼ぎに来ている人って、自分の国に福祉とかないんですって。だから稼いだ分を全部送るんです。これがアフリカでは福祉という話を聞いて。

たぶんビットコイン等々が流行った自助の世界って家族ってものが一番の依り代になってしまうのかなと思っていて。っていうのも徴税できないから公共財が維持できないということ。つまり自由市場で公共財を作ることは理論的にあり得ないんです。なんだか友情とか家族の世界になっていってしまうのをすごい感じていますね。

上田:ある意味では野蛮化していっている?

「資本主義」の次に「呪術主義」になった

落合:そう。トランプの貿易赤字をなくそうみたいな話も、経済学的に言うとおかしな話で、Voodoo economicsって言われているんですよ、呪術経済学。僕の中では、資本主義の次は呪術主義になっちゃったな、と思っていて。もっと言うとプログラマブルな呪術主義だと感じています。

上田:そこから呪術がきているんですね。

落合:そうです。

上田:Voodoo economicsっていうのは、なぜその名前がついたんですか?

落合:完全に損得勝ち負けで経済学を回しているトランプという男の怪しげな理論だから……。でもトランプのせいなのかな、もっと前からあったような気もするんですけど。

上田:個人の意思が正しいかどうかでなく反映されるって感じですか?

落合:そうです。

上田:どんどんそうなっていきますね。Facebookを例にすると、Facebookの基幹を作っている人の機嫌次第で世界の形が変わるかも知れないじゃないですか。

落合:あれですよ、ケンブリッジ・アナリティカみたいな。

上田:考えると神話的な世界に近づいているなって思いますね。

(第3回へつづく)


→第3回はこちら「小説家を夢見たエンジニアと、エンジニアを刺激したい小説家」芥川賞作家・上田岳弘氏×ブロックチェーンエンジニア・落合渉悟氏 <2万字特別対談>(3)
→第1回はこちら「天才小説家と天才エンジニアの化学反応」芥川賞作家・上田岳弘氏×ブロックチェーンエンジニア・落合渉悟氏 <2万字特別対談>(1)

インタビューイ・プロフィール

上田岳弘
1979年、兵庫県生れ。早稲田大学法学部卒業。 2013年、「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞し、デビュー。 2015年、「私の恋人」で第28回三島由紀夫賞を受賞。 2016年、「GRANTA」誌のBest of Young Japanese Novelistsに選出。 2018年、『塔と重力』で第68回芸術選奨新人賞を受賞。 2019年、『ニムロッド』で第160回芥川龍之介賞を受賞。 著書に『太陽・惑星』『私の恋人』『異郷の友人』『塔と重力』『ニムロッド』『キュー』がある。

落合渉悟(sg)
レイヤー2ブロックチェーン開発フレームワークの開発で世界的に注目を集めるCryptoeconomics LabのCo-founder/ex-CTO/Chief Economist。技術理解はさることながら、経済・国際秩序などにも広い見識を持ち、CELの高い技術力をどこに投下することで成果が最大化されるかについて全面的な責任を持つ。Twitter:@_sgtn 

上田岳弘氏 作品紹介

『ニムロッド』(講談社刊)

それでも君はまだ、人間でい続けることができるのか。あらゆるものが情報化する不穏な社会をどう生きるか。仮想通貨をネット空間で「採掘」する僕・中本哲史。中絶と離婚のトラウマを抱えた外資系証券会社勤務の恋人・田久保紀子。小説家への夢に挫折した同僚・ニムロッドこと荷室仁。やがて僕たちは、個であることをやめ、全能になって世界に溶ける。すべては取り換え可能であったという答えを残して。第160回芥川賞受賞作品。

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『キュー』(新潮社刊)

さあ、今から「世界最終戦争」を始めよう。人類を終わらせるんだ。
キュー、それは終末を告げる合図、あるいは孤独からの救済。
超越系の旗手、新芥川賞作家が放つ超・世界文学。ウェブ連載から更に飛翔した決定版。
前世に〈太陽〉と同じ温度で焼け死んだと話す少女が同級生だった「僕」は、この〈惑星〉で平凡な医師として生きていたが、いきなり「等国」なる組織に拉致された。彼らによれば、対立する「錐国」との間で世界の趨勢を巡り争っており、その中心には長年寝たきりとなっている祖父がいるという。その祖父が突然快復し失踪、どうやら〈私の恋人〉を見つけたらしい。一方、はるか未来に目を覚ました自称天才の男は迎えに来た渋い声の〈異郷の友人〉と共に、《予定された未来》の最後の可能性にかけるため南へ向かい、途中、神をも畏れぬ〈塔〉を作り〈重力〉に抗おうとした〈ニムロッド〉の調べが鳴り響く。時空を超えた二つの世界が交差するとき、すべては完成する……?

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編集:深谷その子、設楽悠介(あたらしい経済)
写真:大津賀新也(あたらしい経済)

この記事の著者・インタビューイ

あたらしい経済 編集部

「あたらしい経済」 はブロックチェーン、暗号通貨などweb3特化した、幻冬舎が運営する2018年創刊のメディアです。出版社だからこその取材力と編集クオリティで、ニュースやインタビュー・コラムなどのテキスト記事に加え、ポッドキャストやYouTube、イベント、書籍出版など様々な情報発信をしています。また企業向けにWeb3に関するコンサルティングや、社内研修、コンテンツ制作サポートなども提供。さらに企業向けコミュニティ「Web3 Business Hub」の運営(Kudasaiと共同運営)しています。 これから「あたらしい経済」時代を迎える すべての個人 に、新時代をサバイバルするための武器を提供する、全くあたらしいWEBメディア・プロジェクトです。

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