分散化社会にとって必要なのは自己拡張

特集 主役は個人。分散型社会の未来

大手プラットフォームが掌握する社会から分散型社会へ

―テクノロジーはものすごいスピードで私たちの生活に入り込んできていますよね。既に何かが緩やかにでも変化しはじめているのでしょうか?

今までの日本では、国の制度や、企業が保証したものを信頼してきました。その信頼が、プラットフォームに寄ってきていると思います。例えば「食べログ」などがそうです。どのようなアルゴリズムにするかが重要になってくるわけですが、現状ではそれが一部の大手プラットフォームの指標だけで作られ、そこに信頼が置かれはじめていると思います。

シェアリングエコノミー業界の中でも、AirbnbやUberなど、プラットフォーム至上主義になりつつあります。ですが、そこに対して欧米を中心にデモも起きている。自分の個人情報はどこまで預けていいのか、現在の手数料はおかしいんじゃないか、とか。

その運動の中で、ブロックチェーンを使った組合型で非営利のサービスができてきています。プラットフォーム資本主義的な、データを企業がすべて掌握するような社会の中では、個人が主役になる分散型社会はできないですからね。

私は、一部の大手企業や大手プラットフォームが掌握するのではない、分散型社会になる未来を期待しています。だからこそ今社会に問いたいのは、個人がネオ市民となって進化できるか。個人が主役の社会=自由と責任が伴う社会ということです。

一人ひとりが責任と権利の自覚をどこまで持てるかがとても重要です。海外だと個人の権利にすごく反応しますが、日本はインターネットの権利含め、まったく意識していない。知らない間に個人情報も渡るし、疑問も持たずに多くの手数料を引かれていたりする。ここの意識をどう変えていけるか。

自分にあったコミュニティを選択する

―分散化していくと自由とともに個人の責任がすごく重くなっていく。国や企業に寄りかかるのはラクではあるけど自由ではない。どちらが、あるいは何が、個人にとって幸せなんでしょうか?

個人を守るセーフティネットはもちろん必要です。これまでは国か企業でした。しかし国は、領土という、たまたま生まれた場所によって決められたもの。企業やプラットフォームは、営利が原動力で動いているもの。

どちらも個人を幸せにするには不十分です。

では何が本当に個人として幸せに近づけるのかというと、思想であり拠り所だと思います。自分の思想や思考が近いコミュニティが一番居心地の良さを感じるんです。アイデンティティや趣味嗜好がベースでできた組合やコミュニティの経済圏の中に入っていって、それぞれが守り合う。コミュニティに、経済機能や生活に紐づく機能が作られていく。それが一番良い形ではないでしょうか。

—そのコミュニティにはどのような経済が生まれるべきなのでしょうか?

現代はなんでもかんでも数値に換算する、利害の中で対価交換することに慣れてしまっていますけど、もっと昔は物々交換であったり、見返りが戻ってくるのかもわからない贈与経済の時代があったわけです。

「シェア」という思想が根付いていけばいくほど、贈与経済のようになるのではないでしょうか。これまでお金で交換できなかったものが価値になっていったり。お金を介する必要がないということが鮮明になって選択肢が増えていくと思っています。

コミュニティを成長させるためには、一定の成長が必要です。その緩やかな成長をどうやったら民主的に決められるのか。例えばスペインのマリナデラ村というところは、2000人くらいの村で、月12万円くらいのベーシックインカムがありながら、市場経済でちょっとずつビジネスをやっています。これまでのGDPの成長率で考えるのではなくて、村民2000人が幸福になることを目標としているのです。

この村では幸福の指標はGDP成長率ではなくもっと別のものだから、スペインという国は10%の成長を目指していたけれど、私たちの村は0.3%でもいいよね、みたいなことになるわけです。そういうことを自分たちで決めていけるコミュニティが増えていけばいいのだと思います。

ただし、これは1億人とかの規模は無理です。2000人とか10000人くらいの中で、自分たちが心地よい成長曲線をみんなで決める。そういうコミュニティが増えていって、私はここがいい!と選べる社会がいいですね。

自己拡張することで理想のシェアを

—見返りがあるかもわからないシェアって誰もができるものでしょうか?

テクノロジーがインフラになっていく時代に人類が持ちうる唯一の可能性は、「良心」だと思っています。損得勘定ではない感情や思いやり、利他的な価値観こそ人間らしさを表す重要な要素になるのではないでしょうか。その中でシェアが広がる世界を進めていくには個人がどこまで人間らしさや自分の「良心」に向き合い、人や社会と対峙できるか。信頼や思いやりの感情を拡張して、友だちを増やしていくみたいに、どこまでを自分ごと化できるかということ。自分ごとの境界線を広げていく修行がこれまで以上に必要になるでしょう。

例えば通勤電車が満員で困っているママと子どもがいた時に、自分ごと化できる人とそうでない人がいます。それは自己の拡張のレベルによって違うわけで。そういう自己拡張を一人ひとりが行っていくことで、もっと多くの人と分かち合うことがスムーズにできるのではないでしょうか。

シェアという概念が確固たる定義がないので難しいと思いますが、私はシェアのそういう側面受け入れられてほしいと思う。個人間でのコミュニケーションの中で、どこまで他人に対して自分を広げて生きていけるか。それを一人ひとりがやっていくことが結果的に強い個人を生むのだと思います。

―シェアが広がっていき規模が大きくなってくると、悪意をもった人間も出てくると思います。規制についてはどう考えますか?

規制の目的は、悪意をもった人間が悪さをしないために、事件が起こらないために、安全な市場環境を整備するためにやるわけですよね。シェアリングエコノミー協会では今「官民共同規制」型の新しいルールメイキングに取り組んでいます。国が定めたガイドラインをもとに、民間側がプラットフォームを認証する仕組みです。今年このモデルをもとに国際標準への取り組みが決定し、世界で同じモデルを展開させようと国際会議が始まりました。

ただ、一方で特にCtoCというシェアエコの世界では、国、企業だけでなくユーザーとなる個人のルールメイキングへの参加が重要です。企業、行政、個人が同じ場でルールを作っていく機会や場を作っていくのが私が当面目標としている未来です。

(つづく)

編集:深谷その子/設楽悠介
撮影:堅田ひとみ

この記事の著者・インタビューイ

石山アンジュ

一般社団法人Public Meets Innovation代表 一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長 / 内閣官房シェアリングエコノミー伝道師 1989年生まれ。シェアリングエコノミーの普及、規制緩和・政策推進・広報活動に従事。総務省地域情報化アドバイザーほか厚生労働省・経済産業省・総務省などの政府委員も務める。2018年10月ミレニアル世代のパブリックとイノベーターをつなぎイノベーションに特化した政策を立案し世の中に広く問いかけるシンクタンク一般社団法人Public Meets Innovationを設立。ほかNewsPicks「WEEKLY OCHIAI」レギュラーMC出演を務めるなど幅広く活動。Business Insider Japan 固定観念を打ち破り世界を変える『Game Changer 2019』46人に選出。国際基督教大学(ICU)卒、新卒で株式会社リクルート、株式会社クラウドワークス経営企画室を経て現職。著書『シェアライフ-新しい社会の新しい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)。

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未来を逆算し、官と民、両者の目線で切り開くべき私たちの未来

モビリティとかアグリテックとか毎月テーマを決めて、それに関わる官僚と、スタートアップの経営者や弁護士と政策を議論しています。政策のオーナーとなるポリシーオーナーに各省のミレニアル世代の官僚を立てて。例えば、経産省の人がポリシーオーナーとなってモビリティの空飛ぶ車の議論をしたり。