【解説】ヴィタリックによるイーサリアムのロードマップ。 Merge、Surge、Scourge、Verge、Purge、Splurgeとは?

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手塚康夫

【解説】ヴィタリックによるイーサリアムのロードマップ

イーサリアム(Ethereum)の共同創業者ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏が、最近イーサリアムのアップグレードに関する内容のブログを複数回更新しています。

イーサリアムはこれから、どのように変わっていくのでしょうか。

今回は、ヴィタリックの一連の記事で頻繁に出てきたこのイーサリアムのロードマップについて、この複雑な図の見方について解説していきます。

はじめに、図の上から大きくMerge(マージ)、Surge(サージ)、Scourge(スカージ)、Verge(ヴァージ)、Purge(パージ)、Splurge(スプラージ)とあります。

これらはそれぞれ「イーサリアムが完璧になるために必要な6つの大きな目標」です。ヴィタリックの記事のタイトルにもなっていましたね。

それぞれの名称の下にその説明があり、それを達成するまでに必要な変更点と達成度を一緒に図示されています。

時系列は左が過去で右が未来、縦にひかれた線の場所が現在の進行状況です。

各項目の緑色の部分はその項目がどれだけ完了しているかを示しています。重要なマイルストーンが青色になっており、紫は全て量子耐性暗号に関する項目になっています。

Merge(マージ)

では、Merge(マージ)のレーンを見てみましょう。Mergeの説明は、「理想の、シンプルかつ堅牢で分散化されたPoSコンセンサスを持つこと」であり、内容にはPoWからPoSへの変更や、シングルスロットファイナリティ(1ブロックでブロック内容が完全に確定し覆らなくなる変更)の実装などが入っています。

そしてもっと将来的には、量子コンピュータに耐性を持つ暗号化の実装も視野に入っているようです。

Surge(サージ)

次にSurge(サージ)。「ロールアップを含めて、秒間100,000tx以上の処理ができること」を目標としており、このレーンは主にL2に関するアップグレードです。blobを導入してL2のガス代を100分の1にしたEIP-4844を基本的なロールアップのスケーリングとし、それをより高速にするためのpeerDASというデータ処理方法の実装、ORUとzkRUの仕組みがそれぞれ完成したことをもってフルスケーリングの完了としています。

その後は量子耐性と、ロールアップ間で使用される技術の規格化等を行うようです。

Scourge(スカージ)

そしてScourge(スカージ)。これはMEVに関するレーンで、「MEVとリキッドステーキング/プーリングの中央集権化懸念を排除する」という目標です。

MEVというのは、ざっくりいうと「トランザクションをブロックにする過程で第三者に中抜きされる資産」のことです。イーサリアム上で大きな額のスワップを行った時などに、このMEVを得る攻撃を知らず知らずに受けて大きな損をしてしまう場合があります。これは現在のイーサリアムのブロック生成の仕組みに穴があることが問題で、Scourgeはこれを防ぐためのアップグレードです。

また他にも、このレーンではバリデーターのステーキングに関する最適化やリキッドステーキングの中央集権化問題も取り扱います。しかしどれも実装は結構先になりそうです。

Verge(ヴァージ)

Verge(ヴァージ)の目標は「ブロックの検証をめちゃくちゃ簡単にすること」です。

ブロックの検証、つまりユーザーが受け取ったブロックに含まれる取引結果の内容が正しいかどうかを検証する方法は、現在は「保存されてる計算を全部やり直して正しいかどうか確かめる」という方法になっていますが、これにはコストがかかります。

Vergeでは、現在のMPTというブロックの構造をVerkle Treesという新しい方式に変更したり、またゼロ知識証明を活用してより簡潔に検証を行えるようにすることを目標としています。

しかし直近のヴィタリックの記事では、Verkle treesを本当に実装するかどうかに関して疑念が出てきたなど、議論が続いているようです。

Purge(パージ)

実質的に具体的なロードマップが決まっている最後のものが、Purge(パージ)です。

Purgeの目標は「プロトコルをよりシンプルにし、技術的負債を削除しネットワーク参加のためのコストをより低くすること」です。

イーサリアムはアップグレードに応じてどんどんソースコードが複雑化していき、またブロックチェーン自体のデータも永久に増え続けています。肥大化していくイーサリアム自体をシンプルに保てるように、必要のなくなった部分の削除や、ブロックチェーン全てを保存しなくてもネットワークに参加できるように要件を変更するのがPurgeで行うことです。

すでに、イーサリアムのノードはイーサリアムのチェーンを全て保管していなくても問題ないようになっており、コンセンサスに関わる内容は直近6ヶ月分のデータしか保持する必要がありません。今後はレシートや履歴データについても、もっと短期間あるいはブロックデータの一部分をより早く削除できるようになるようです。

Splurge(スプラージ)

そして最後にSplurge(スプラージ)が待ち受けているのですが、これの内容は「その他全ての修正と調整」であり、正確な内容はあまり確定していません。ヴィタリックのブログでも「イーサリアムのプロトコル設計には、イーサリアムの成功にとって非常に価値のある”小さなこと”がたくさんありますが、大きなサブカテゴリーにはうまく収まらない」と触れられています。

一応予定としては、ガス代の計算メカニズムであるEIP-1559の最適化や、アカウント抽象化(AA)の実装等が含まれています。

さて、これでロードマップの図が何を伝えているのかを理解できたと思います!

このロードマップは、開発の順序があるわけではなくどれも並列して開発されています。実際、直近のPectraアップデートの後は、時期は不明ですがFusakaアップデートという名前でVergeに関する実装が予定されています。必ずしも上から実装されていくわけではないわけですね。

今回扱ったこのロードマップの画像は2023年時点のもので、Vergeの項でも話したとおり変更されるかもしれない点がいくつかあったりします、それらについては今後ヴィタリックのそれぞれの記事をまとめていく過程で改めてお伝えできればと思います。

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今後もこちらでの連載や、私のnote、XなどでWeb3に関する情報発信をしていきますので、ぜひフォローいただけると嬉しいです。

本文画像引用:ヴィタリックのブログ
サムネイル画像:大津賀新也(あたらしい経済)

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手塚康夫

株式会社クリプトリエ 代表取締役 CEO 2006年に株式会社ジェナを設立、2021年の株式会社マネーフォワードによるM&A後に同社を退任。現在は2023年に設立した法人向けにweb3ビジネスを展開する株式会社クリプトリエの代表取締役の他、複数のスタートアップの役員や顧問を務める。株式会社クリプトリエでは、NFTのビジネス活用を簡単かつ迅速に実現するプロダクト「MintMonster」を提供し、企業におけるWeb3活用の普及を目指す。

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