大手DEXが独自チェーンを作るのは「あり」か「なし」か。ユニスワップ「Unichain」とは?

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手塚康夫

Uniswapが独自チェーン「Unichain」発表

今回は10月10日に公開されたDEX(分散型取引所)Uniswapの独自ブロックチェーン「Unichain」について、その概要と「なぜ作られたのか?」という点について、イーサリアム共同創設者Vitalik Buterinの発言の解説とともにまとめます。

「Unichain」は、Uniswap Labsが作成した、OptimismのSuperchainエコシステムに属する新たなイーサリアムのレイヤー2ブロックチェーンです。ロールアップの形式はOptimistic Rollupです。また内部の仕組みには、Flashbotsと共同開発した機能などが使用されています。

この「Unichain」自体の目的は、「DeFiとマルチチェーン流動性のホームになること」と、「DeFiエコシステムの課題(実行品質、ユーザー体験、流動性の断片化)に対処すること」です。つまり、単純にUniswap自体をL2に移行するということだけが目的ではないようです。

Uniswap Labsは「Unichain」について、しっかり論文形式のWP(ホワイトペーパー)を公開しています。このWPには、「Flashblocks」、「Unichain検証ネットワーク(UVN)」などの「Unichain」独自の機能の仕組みなどについて記載されています。これらについては別の機会に解説しようと思います。

Unichainはそもそも必要なのか?

さて、Uniswapはこれまで独自チェーンを作る必要のないDappと言われていました。2022年のVitalikのツイートでも、「Uniswapが複数のロールアップ上でUniswapコピーを立ち上げるのならわかるが、Uniswapチェーンを作るのは意味が分からない」と言及されていました。

Vitalik本人によるこのツイートは、そもそもは以下の「Uniswapはチェーンを作るべきである」という以下のMediumの記事への意見としてツイートされたものです。

The Inevitability of UNIchain by Dan Elitzer

この記事内では、MEV、スワップ時の手数料、そしてガス代の3つの観点から、Uniswapはチェーンを作るべきだという主張をしています。これに対してVitalikは、「独自チェーンはブリッジを介さないと使えないので、遅延が生まれてしまってUXは悪くなる」と反論しているのです。

その指摘は2022年時点では確かですが、現在はSuperchain構想やL2の高度化によって、当時ほど難しい実装ではなくなってきています。

また、以下のツイートでは、リサーチャーのatiselsts.ethにより、別の角度からUnichainの存在理由が説明されています。

ここでは、Uniswapの狙いには「既存のCEX(中央集権型取引所)との取引シェアの競争」があると指摘、「Uniswap v4や、X、そしてイーサリアム自体のアップデートに伴って、イーサリアムメインネット上のUniswapがCEXと戦いづけられる性能を維持できるかどうかが不明なので、独自に設定され柔軟に変更できる独自チェーンが良い」、また「既存L2ではできない完全なMEVの補足とそれをステーカーやユーザーに還元することも独自チェーンなら可能」と独自チェーンを作る有用性について説明されています。

確かにどちらも独自チェーンを作成するにあたって重要な視点です。しかし結局のところはVitalikの指摘している通り、ブリッジが壁になるはずです。

Superchainがもっと発展して、他チェーンによりシームレスかつ高速にブリッジが行えるようになれば、すべてのSuperchain内のDEXにUnichainを使う日が来るかもしれません。あるいは、「DeFiとマルチチェーン流動性のホームになること」という狙いどおり、L2におけるDefiのハブチェーンとして機能するかもしれません。

最も多くのユニークユーザーを抱えるDefiアプリケーションと言って差し支えないUniswapですが、既に成熟したDefi環境を持つArbitrumや、今まさにDefiユーザーが増えているBaseを超えられるかどうかが、成功のカギになっていると感じます。

また、Unichainが大きく伸びれば既存のEVM互換を持つ「Defi特化L2(アプリ特化チェーンではなく汎用的にDefi向きのもの)」はかなり苦しくなるかもしれません。

L2が増えて既に数え切れなくなっている現在、「Unichain」がDeFiにおいて頭一つ抜けたチェーンになれるかどうか、注目ですね。

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この記事の著者・インタビューイ

手塚康夫

株式会社クリプトリエ 代表取締役 CEO 2006年に株式会社ジェナを設立、2021年の株式会社マネーフォワードによるM&A後に同社を退任。現在は2023年に設立した法人向けにweb3ビジネスを展開する株式会社クリプトリエの代表取締役の他、複数のスタートアップの役員や顧問を務める。株式会社クリプトリエでは、NFTのビジネス活用を簡単かつ迅速に実現するプロダクト「MintMonster」を提供し、企業におけるWeb3活用の普及を目指す。

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