「NFT meets BUSINESS 2024」イベントレポート
NFTのビジネス活用が学べるイベント「NFT meets BUSINESS 2024 produced by cryptolier」が、2月に東京ミッドタウン日比谷にて開催された。Web3関連のソリューションを手掛ける、株式会社クリプトリエが「NFTのビジネス活用を”今”からはじめよう」をテーマに主催したこのイベントは、東京でも降雪のあったタイミングにも関わらず、100人を超える企業担当者が参加した。
今回「あたらしい経済」では、このイベントの登壇者らのプレゼンテーションや、パネルディスカッションの内容をレポート記事でご紹介する。
「MintMonster」で実現するNFTマーケティング (クリプトリエ 手塚康夫)
はじめにイベント主催の株式会社クリプトリエ 代表取締役 手塚康夫氏が新サービス『MintMonster(ミントモンスター)』のお披露目と、それを活用したNFTマーケティングについて発表した。
「私たちはこれまでも色々なNFTのビジネスを支援してきましたが、それらの企業様からNFTを自社商品のPRやマーケティングに活用できないか、というご要望を多数いただきました。それに応えるべく作ったのが『MintMonster』です」
同社が発表した『MintMonster』はNFTの配布やその活用、そして効果測定までがワンストップで実現するBtoB/SaaS型のサービス。手塚氏は「NFTを配る企業もNFTを受けとるユーザーも、簡単で手軽であることに、まずこだわりました」と話す。
実際『MintMonster』を利用する企業側は暗号資産の保有やガス代の負担の必要なく、QRコードやNFCタグでNFT配布ができる。そして受け取るユーザーにもメタマスクなどのウォレットを持たずとも、メールアドレスだけでウォレットを作成できる機能が提供されている。
さらに手塚氏がこだわったのが、「NFTを配るだけで終わらない」ことだ。
「NFTをなんとなく配布してそのままになっている企業様の話をよく聞きます。私たちが重視したのは配ったNFTをしっかり活用できる仕組みです」
具体的にはNFT保有者に、クーポンやチケットなどを配布する機能や、限定コンテンツを提供できるトークンゲート機能などが用意されている。さらに『MintMonster』では指定したNFTの保有の有無を認証する機能や、X(旧Twitter)などSNSと連携してNFT配布型のキャンペーンができる機能、アンケートによりNFTを配布する機能など、充実したマーケティング手段も用意されている。
「『MintMonster』にはデジタルマーケティングの効果を最大化する仕組みを搭載しています。利用いただく企業には顧客に満足のいく価値を提供しつつ、NFTを活用してちゃんとビジネス的な成果を出して欲しいです」
なお企業は専用の管理画面で配布後の効果測定が簡単に実施できるとのこと。さらにニーズに合わせて柔軟なカスタマイズや利用企業のシステムとの連携などにも対応できるという。
最後に手塚氏は、これから5年10年で確実にNFTなど Web3を使ったビジネスが当たり前になると予想し、次のように話した。
「だから私たちはWeb3だけでなく、Web2の手法と融合して、多くの企業様がビジネス的な成果を出すことができるサービスを提供していきたいと思っています。『MintMonster』は月額5万円からご利用でき、初期費用無償のキャンペーンも実施中です。大きなコストをかけず、まず試してみることができます。是非とも私たちのサービスを活用して多くの企業にWeb3に挑戦していただきたいです」
企業が参入する際の重要なポイント(あたらしい経済 設楽悠介)
次に株式会社幻冬舎「あたらしい経済」編集長の設楽悠介が「Web3の基礎とビジネス活用」について解説した。
「ギャビン・ウッドの定義したWeb3やVCらが定義したものなど、Web3に対する世間の認識にクラデーションはあれど、なぜブロックチェーンで分散化した仕組みが実現できるのかを理解することが重要です。それを理解した上で、どの程度Web3の思想を取り入れるのか? 分散型の仕組みを構築するのか? を考えるべきです」
設楽はそう話し、なぜ特定のリーダーや運営者がいなくてもブロックチェーンが動くのかについて、ビットコインのマイニングの事例をもとに解説。さらにイーサリアム上で実現した分散型アプリケーションの仕組みを解説した。
「ブロックチェーンを活用すれば、アセットのトークン化はもちろん、分散型でコストが安くアプリケーション等を作れます。設計によってはマイクロペイメントやトレーサビリティも実現できる。特に個人的に注目しているのは、コストが安いというポイント。例えばWeb2で手塚さんが紹介したような顧客へのクーポン配布システムをフルスクラッチで構築すると、結構高いですよね。でもイーサリアム使ってNFT使えば、比較的安価に実現できます。「MintMonster」だと、月5万円から実施できるわけです」
最後に設楽はビジネス発想の上で考慮すべきポイントを挙げた。
「まず大切なのはグローバルなトレンドを意識すること。そしてWeb3ユーザーを狙うか、新規層を狙うか? のターゲティング。またパブリックか、プライベートか? どこまで分散化するかの設計も重要で、既存ビジネスとのバランスも考慮すべき。そしてもちろん法律/規制も守らなければいけない。その点でも今日のイベントテーマであるNFTは、FT(ファンジブルトークン)を発行するのと違いライセンスが必要ないので、日本企業さんが取り組みやすい領域だと思います。是非とも多くの企業さんにNFTを入り口にWeb3に挑戦していただきたいです」
ブロックチェーンは巨大CRM?(博報堂キースリー CEO 重松俊範)
つづいて博報堂キースリーのCEO重松氏が「広告会社から見たWeb3」をテーマに語った。
重松氏はこれまでにトヨタやマツダ、三菱地所らと実施してきたハッカソンの取り組みを紹介。そしてNFTを活用した事例として日本航空(JAL)と実施している、地域の特別な体験を提供するNFT 「KOKYO NFT」プロジェクトについて解説した。この取り組みで三重県鳥羽市では「真珠婚式」を、鹿児島県奄美市では「奄美黒糖焼酎」を連動させたNFTを発行したとのことだ(なお、現在新たな6つの地域で実証実験の第2弾を開始している)。
「さらにクリプトリエさんの明和町竹神社での御朱印をデザインしたNFTをコレクションして、クーポンも獲得出来る『e御朱印』プロジェクトもお手伝いさせていただきました」
なお『e御朱印』には本日発表された前述の『MintMonster』が裏で活用されていたとのこと。そして重松氏は昨年話題を呼んだカルビーらとの「NFTチップス」についても解説した。
「カルビーさんとはポテトチップスを買うと、NFTがもらえる。さらにたくさんその商品を買うとNFTが成長するという、ダイナミックNFTを顧客に提供しました。それによって、実は今までカルビーさんも分からなかった購入回数の多い顧客のデータを取得できたわけです」
そして重松氏はそこから得た可能性について語った。
「例えばカルビーさんのNFTチップスを買った人に、飲料メーカーさんがポテトチップスに合うドリンクのクーポンを配布するということも可能だと思うんです。ブロックチェーンという透明で分散化されたネットワークの上にデータが残るのから、実現できる」
重松氏曰く、広告会社の立場からすると、ブロックチェーン自体が企業の垣根を超えた大きなCRM(顧客管理システム)に見えるとのこと。重松氏は最後に次のように語った。
「Web3でWeb2を置き換えるのではなく、Web2プラスWeb3のサービスを提供していきたいです。その上でWeb3にしかできないことはよりスムーズな、垣根を超えた企業間連携だと思います。広告会社が目指す未来はインターオペラビリティ(相互運用性)、これからWeb3の技術を使って、人々の日々の生活と企業のサービスがより繋がっていく時代になると思っています」
パネルディスカッション「Web3 やNFT活用ビジネスを始めるには、何が重要?」
続いてプレゼンテーションを行なった手塚氏、重松氏がスピーカーとして登壇し、設楽がモデレーターを務めた「企業におけるWeb3やNFTのビジネス活用」をテーマにしたパネルディスカッションが開催された。
Web3に参入する時に企業が一番考えるべきこと
設楽:企業がWeb3やNFTビジネスをはじめるにあたり、一番最初に考えなければいけないことはなんだと思いますか?
重松:私たちは広告会社ですので、既存のお付き合いのある多くの企業さんから「NFTやりたい」という相談が来るんですが、「とりあえずやりたい、儲かりそうだから」みたいな状況のことも多いんですよね。
もちろんそういった動機も必要ですが、本来大切なのは「それで何を解決したいのか?」ですよね。解決したい課題によっては、NFTではなくAIの方がいいかもしれない。だから「何を解決したいのか?」をまず考えるべきだと思いますね。
手塚: Web3に参入する際に、新規事業担当の方や部署がリードすることが多いと思うのですが、彼らは「とにかく新しいテクノロジーを使って、何か新しいことをしろ」と上からざっくりと指示を受けて進めていることもしばしばですよね。そうすると重松さんのおっしゃる通り、課題が明確でないことが多い。そしてそういった人たちがはじめるときに、「本業と近いところでやる」ことも重要だと思っています。
全く本業から離れて、知見もないところで挑戦すると、明確なKPIも立てづらいし、社内で予算も人も集まりにくい、つまり長続きしない訳です。そして結局、実証実験で終わってしまうことも多いのではないかと感じます。
一方、NFTの活用などで成功している企業さんは、本業と関連する領域で実施したり、うまく本業と紐付けたりしている印象があります。事業の永続性をちゃんと考えて、本業とうまく連携することが重要です。
設楽:確かに、例えば国内だと「NOT A HOTEL」さんは、うまく本業の中にNFTを溶け込ませ、さらに客層もマッチしているように感じますね。
重松:あとNFTやWeb3というのはあくまで技術なので、それを活用したアウトプットのクリエイティブのクオリティもめちゃくちゃ大事だと思います。かっこいいとか、使ってみたいとか、持っていたいとか、そう思わせるクリエイティブは、実は技術と同じぐらいは大切。
設楽:そういう意味でクリプトリエさんの『MintMonster』もデザインとかクリエイティブに拘りを感じました。
手塚:そうですね、僕自身が3年ぐらい前にWeb3業界に入った時、すごく楽しそうだけど、難しそう、という印象を受けたんですよ。ユーザー体験が初心者向けのものが少ない。そのためオンボーディングのプロセスが長すぎる。だからそれを改善するためにクリエイティブやUI/UXというのは大切だと思い、僕らのサービスもその点にかなり拘りました。
設楽:確かに、これからはその部分が重要になってくるフェイズですよね。博報堂さん、仕事が増えそう(笑)。
重松:はい(笑)。今後システムに強い会社と、クリエイティブに強い会社やクリエイターの掛け合わせが必要になると感じています。
Web3のマスアダプションに何が必要?
設楽:Web3やNFTのビジネス活用がマスアダプションするために、何が必要だと思いますか?
重松:私は、使いやすいWeb3ウォレットだと思います。僕も勉強のために、最近いろいろなウォレット作っているんですけど、やはり管理が大変で、それぞれ12個のシードフレーズを記録しておかなければいけないのも面倒ですよね。もうどこに何が入っているのか分からない。
ブロックチェーンへの接点がウォレットなので、それが今のままではマスアダプションが難しいと思っています。
手塚:ウォレットはWeb3の入り口なので、そこでユーザーが躓くと先に進めないですよね。私たちのサービスもウォレット機能を提供していますが、使いやすさや安全性は十分考慮しました。『MintMonster』ではメールアドレスやSNSアカウントでウォレットを作成できるようにしています。シードフレーズも記録しなくていいです。
設楽:個人的には秘密鍵を自分で管理する体験は重要だと思っていますが、確かにマスアダプションするためには難しいですよね。あと僕の方で付け加えると、日本の暗号資産やNFTにかかる税金の高さの問題も、ハードルになっていると思います。クリプト市場が盛り上がれば、そこで生まれたお金がブロックチェーンゲームとかNFTに落ちてくるので、根本的にクリプトのトレードが日本で盛り上がらないことが、いろいろな足枷になっていると思います。
今、挑戦すべき理由
イベントの最後には登壇者、参加者によるネットワーキングパーティーも開催された。多くの企業担当者が進行を深め、閉会時間までWeb3の可能性を語りあった。
本レポートの公開時点で、ビットコインは2021年ぶりに過去最高値を更新した。今年は、Web3領域が再び盛り上がる年になるだろう。逆に、これから企業が参入するための猶予は長くないと言えるかもしれない。準備の時間はそれほど残っておらず、勝負すべきタイミングは近い。
このレポートで紹介したように、ここ数年で大手企業の参入も増え、またそれをサポートするサービスやツールも整ってきている。本記事を読んでいただいた方々が、Web3やNFTをはじめるきっかけとヒントを少しでも掴んでいただければ嬉しい。
関連リンク
クリプトリエ
博報堂キースリー
写真:堅田ひとみ